アーロン・コープランド:『アメリカらしさ』の革新性と映画音楽への展開
石井拓洋, 東京芸術大学審査学位論文(博士), 2016年度 (H28年度) 提出
序 章
- 0-1. コープランド、その今日的な受容像
- 0-2. 研究の背景
- 0-3. 研究の目的
- 0-4. 研究の手法
- 0-4-1. 批評理論における〈テクスト〉の解釈をめぐる問題
- 0-4-2.「政治的無意識」:フレドリック・ジェイムソンの批評理論
- 0-4-3. ジェイムソンの〈全体性〉
- 0-4-4. ジェイムソンを援用する根拠
- 0-4-5.「複数のテクスト」の中における音楽の意味作用:ニコラス・クック
- 0-4-6. 作曲家による表現として映画音楽の分析を行なうための前提
- 0-5. 研究の意義
- 0-6. コープランド研究の事例数、状況
- 0-7. 主要な語の定義
- 0-7-1.「現代アメリカ」
- 0-7-2.「革新」と「保守」
- 0-8. 本論の構成
第1章 コープランドを「歴史化」する
- 1-1. コープランドの美学的立脚点
- 1-1-1. 20世紀の新大陸の作曲家として
- 1-1-2. 自律美学、または西欧近代主義への省察の必要性について
- 1-1-3. 自律美学的視座によるコープランド批評の例
- 1-1-4. 自律美学的視座によるコープランド批評に対する批判的検討
- 1-2. コープランドと〈マッカーシズム〉
- 1-2-1. 政治的作用による文化的歴史叙述への影響
- 1-2-2. 〈修正主義〉:冷戦、抽象表現主義絵画、MoMA、CIA、文化自由会議
- 1-2-3. 国吉康雄:パリ発ニューヨーク着という近代美学史パラダイムの他者
- 1-2-4. 1930年代のリアリズムと政治的左派、冷戦期の抑圧
- 1-2-5. アイゼンハワー大統領就任記念演奏会(1950)におけるコープランド作品の削除
- 1-2-6. 〈ウォルドーフ会議〉(1949) への参加:「共産主義者たちの前衛を綾なす間抜けどもとその同調者たち」
- 1-2-7. 〈赤刈り〉:1953年5月26日午後2時30分、上院ビル357号室、ワシントンD.C.
- 1-2-8. その後のコープランドにおける〈マッカーシズム〉の影響
- 1-3. われわれに求められる視座
第2章 先行研究の検討、論点の抽出
- 2-1. 先行研究例:「コープランド」と「その作品」
- 2-1-1. コープランド:先行研究におけるその政治意識の受容の変遷
- 2-1-2. 政治意識へのまなざし1:ペルリス、ポラック
- 2-1-3. 政治意識へのまなざし2:クライストと〈革新主義〉
- 2-1-4. 作品について:その多様性を指摘するもの
- 2-1-5. 作品について:中心的な書法の指摘への試み1(ラーナー 2001の分析)
- 2-1-6. 作品について:中心的な書法の指摘への試み2 (クライスト 2003の分析)
- 2-1-7. 作品について:中心的な書法の指摘への試み3 (マーチソン 2013の分析)
- 2-2. 先行研究の批判的検討
- 2-2-1. 批判的検討から論点抽出へ
- 2-2-2. ハリウッド映画の音楽研究に関するレビュー
- 2-3. 議論すべき3つの論点
第3章 「現代アメリカ」の形成における〈革新主義〉の位置づけ
- 3-1. 20世紀初頭の合衆国における社会問題
- 3-1-1. 社会問題の前提となるもの:「19世紀アメリカニズム」
- 3-1-2. 経済的〈自由放任主義〉と〈新移民〉:19世紀末の急激な工業化と都市化
- 3-2. 社会秩序の形成:20世紀転換期の〈革新主義〉
- 3-2-1. ハーバート・クローリー:「国家主義的な革新主義」
- 3-2-2. ジェーン・アダムズ:「コミュニティ派の革新主義」
- 3-3. アメリカ史学における〈革新主義〉の受容
- 3-3-1. 「保守」と「革新」の視座からの史学研究群
- 3-3-2. 「アメリカの世紀」との関連からの研究、オリヴィエ・ザンズ
- 3-3-3. ザンズ『アメリカの世紀』:「研究促進体制」
- 3-3-4. ザンズ『アメリカの世紀』:「消費の民主化」1、「平均的アメリカ人」
- 3-3-5. ザンズ『アメリカの世紀』:「消費の民主化」2、「消費者の創出」
- 3-4. 〈革新主義〉:その史的位置づけと意義
- 3-4-1. 「現代アメリカ」形成における〈革新主義〉の位置づけ
- 3-4-2. "via media":「中間の道」としての〈革新主義〉
第4章 スティーグリッツ・サークルにて
- 4-1. 『ダイアル』誌と音楽評論家ポール・ローゼンフェルド
- 4-2. 「スティーグリッツ・サークル」
- 4-2-1. 「スティーグリッツ・サークル」の人々
- 4-2-2. 「スティーグリッツ・サークル」の音楽家として
第5章 「共同体の音楽」をもとめて:1920年代後半以降にみるコープランドの模索
- 5-1. 時代背景:1920年代後半から1930年代のアメリカ
- 5-2. 1920年代後半以降にみるコープランドの模索
- 5-2-1. 「ジャズ」とアメリカらしさの表象をめぐって
- 5-2-2. 「共同体の音楽」へ:1927年バーデン・バーデンのドイツ室内楽音楽祭
- 5-3. コープランドにおける「共同体の音楽」と「民主主義」
- 5-3-1. 複製技術との関連から
- 5-3-2. 西欧近代主義的藝術概念について:「自律美学」をめぐって
- 5-3-1. 「政治の耽美主義」と「芸術の政治化」:ベンヤミンとブレヒトの左翼的藝術観
第6章 「アメリカらしさ」の革新性
- 6-1. 「共同体の音楽」としての〈革命歌〉
- 6-1-1. 1930年代のコミンテルンの動向
- 6-1-2. 左翼政治運動への接近
- 6-1-3. 共産党関連音楽組織への関与
- 6-1-4. 〈社会主義リアリズム〉と〈プロレタリアン・アヴァンギャルド〉な〈革命歌〉
- 6-1-5. 革命歌《5月1日だ、街に繰り出そう!》(1934)
- 6-2. 民俗的音楽素材をめぐって
- 6-2-1. コープランドの音楽理念における民俗音楽素材の位置づけ
- 6-2-2. メキシコでの試行錯誤から
- 6-3. アメリカらしさの誕生:モスクワ発の〈人民戦線〉をめぐって
- 6-3-1. 〈人民戦線〉戦術:1935年、コミンテルン第7回大会〈ディミトロフ・テーゼ〉
- 6-3-2. ワシントン発の〈ニューディール政策〉と、モスクワ発の〈人民戦線〉
- 6-3-3. 〈人民戦線〉にコープランドのアメリカらしさの直接的契機をみる根拠1:ニューディール政策との関連の希薄さ
- 6-3-4. 〈人民戦線〉にコープランドのアメリカらしさの直接的契機をみる根拠2:親ソヴィエトの心情
- 6-3-5. 〈独ソ不可侵条約〉以後にも維持された親ソ連の心情:映画『北極星』、〈アメリカ-ソ連友好会議〉、副大統領ヘンリー・ウォーレスへの共感
- 6-3-6. 〈人民戦線〉にコープランドのアメリカらしさの直接的契機をみる根拠3:コープランドの「アメリカ的表象」の誕生、《The Young Pioneers》(1935)
- 6-3-7. エリート作曲家たちの葛藤と〈人民戦線〉
- 6-3-8. 「アメリカらしさ」の革新性
- 6-4. コープランドの政治思想:その位置づけ
- 6-4-1. ヘンリー・ウォーレス:その民主主義とロシアに対する認識
- 6-4-2. コープランドの政治思想:その位置づけ
第7章 「共同体の音楽」としての映画音楽
- 7-1. コープランドにおける「共同体の音楽」の展開:1930年代
- 7-2. 機械の眼のリアリズム:音楽の新地平
- 7-2-1. アメリカの映画、映画のアメリカ
- 7-2-2. 〈古典的ハリウッド映画〉と音楽
- 7-2-3. 「スティーグリッツ・サークル」と映画
- 7-3. 「共同体の音楽」としての映画音楽
- 7-3-1. ハリウッドへの契約交渉、「ハリウッド規範」
- 7-3-2. コープランドにおける「古典的映画音楽」批判の論点
- 7-3-3. コープランドの「アメリカ」
- 7-3-4. 「共同体の音楽」としての、ハリウッドでの映画音楽の可能性
- 7-3-5. 「藝術の政治化」としての、ハリウッドでの映画音楽の可能性
第8章 不協和音の由縁:ドキュメンタリー映画『都市』(1939)の映画音楽について
- 8-1. ドキュメンタリー映画『都市』:その製作の背景
- 8-1-1. 映画音楽の分析の試み
- 8-1-2. ニューディール期のアメリカ・ドキュメンタリー映画の隆盛
- 8-1-3. ドキュメンタリー映画の父、ペア・ロレンツ
- 8-1-4. ドキュメンタリー映画『都市』の製作背景
- 8-1-5. 都市計画者ルイス・マンフォードと〈革新主義〉の命脈
- 8-2. ドキュメンタリー映画『都市』:シノプシス
- 8-2-1. 分析に用いた資料
- 8-2-2. シノプシス
- 8-3. 「構造的因果律」にみちびかれた映像
- 8-3-1. 思惑の交叉としての映像〈テクスト〉
- 8-3-2. 都市計画事業と映画表現とのはざまの〈テクスト〉
- 8-4. ドキュメンタリー映画『都市』の映画音楽を「読む」
- 8-4-1. 「アメリカらしさ」:映画『都市』にみる「パストラル語法」
- 8-4-2. 映画内における「シーケンスB」の音楽の形式的異質性
- 8-4-3. 映像内容との合致としての不協和音の可能性
第9章 「役に立つ過去」としての「パストラル語法」:映画『廿日鼠と人間』(1939)の映画音楽について
- 9-1. 製作の背景、シノプシス
- 9-1-1. 製作の背景
- 9-1-2. シノプシス
- 9-1-3. 分析に用いた資料
- 9-2. 「役に立つ過去」をつくりはじめた「パストラル語法」
- 9-2-1. 「パストラル語法」の存在
- 9-2-2. 「役に立つ過去」をつくりはじめた「パストラル語法」
終 章
あとがき
参考文献
附録資料集
著者
石井拓洋 Takuyo ISHII ( 1971〜、北海道室蘭市に育つ )。
東京芸大作曲科卒。学術博士。アーロン・コープランド研究。
美大芸大講師のかたわら、アメリカ文化批評を畑中佳樹氏に学ぶ。
takuyo.ishii(a)gmail.com